それは突然だった。
心の中にわたしを揺さぶる感情が芽生えていることに気が付いた。
「それは仕事を辞めよう」
という感情であった。
やりたくて始めた仕事である。
しかも、仕事に対して不満があった訳ではない。
寧ろ、アルバイトの立場では重要な仕事を任されていたし、共に働く仲間も良い人ばかりで、充実感さえ感じていた程である。
辞める理由が分からない。
しかしながら、辞めたいのである。
わたしは自分がなぜそのように考えるのかを考えた。
しかしながら、いくら考えても有力な答えに辿り着くことは出来なかった。
考えれば考える程に絡まり、答えに辿り着けない。
不思議ではあるけれど、わたしの頭の中では故郷の風景が繰り返し再生されるのであった。
もちろん、わたし自身の意思ではない。
思い出そうとしている訳でもない。
「この感覚は一体何なのだろう?」
わたしの胸中にはそのような思いが溢れていた。
ある日、いつもと同じように仕事をこなし、夕方の15分休憩の時間になった。
わたしはスタッフルームに向かうために階段を上がった。
すると、同じタイミングで店長も15分休憩だったらしく、わたしの前を歩いていた。
わたしは店長に追い付くと声を掛けた。
話したいことがあると告げると、スタッフルームで聞くと言ってくれたので店長の後を追うようにスタッフルームに入った。
「話って何?」
店長は軽く聞いてきた。
「今月いっぱいで辞めようと思います…」
わたしは自分の口を吐いて出た言葉に驚いた。
しかしながら、その言葉を撤回しようとは思えなかった。
店長は一瞬止まった。
「えっ?ダメだよ。困るよ」
店長は困惑しているようであった。
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