北灘地区は海と山には挟まれた土地であり、一本の道路が海と山を隔てるように全体を貫いている。
その道路を挟むように住宅が連なっている。
もちろん、山に向かって内陸もあるが、ほとんどの生活が海岸に寄り添うようであった。
わたしの家は道路を隔てた山側に位置していた。
わたしは道路を横断すると、道路を隔てたすぐ先にある作業場へと向かった。
道路から作業場へと向かう途中で、派手な色がわたしの心に飛び込んできた。
それはたくさんの大漁旗や登りであった。
養殖漁業に使う10tの本船に飾り付けられたものであった。
わたしはそれを嬉しく思って駆け寄った。
潮の匂いが微かに鼻腔(びこう)を刺激するのがまた嬉しかった。
しかしながら、わたしはすぐさまその喜びを手放さなければならなくなる。
それは、わたしが海を見てしまったからであった。
海が赤いのである。
赤というよりは茶褐色に近く、とにかく海水が海水ではなくなっていたのである。
所謂、赤潮である。
赤潮はプランクトンの大量発生が原因で引き起こされる現象である。
海に栄養があり過ぎるとそれを餌としてプランクトンが増える。
養殖漁業によって海の環境が変わってしまったのだ。
そもそも、何十万匹という魚の数である。
そこに投入される飼料。
そして、魚が排出する糞尿。
海には栄養が腐るほど存在することになるのは必至なのである。
それに、海が消化しきれなかった飼料や糞尿が海底に降り積もり、ドブの山を築いているのである。
その影響か海藻は激減し、魚の種類も減った。
それに加えて、潮干狩りによる貝類の搾取が水質に更なる影響を与えていた。
結局は、人間の欲望が導き出した結果である。
自然はいつも人の欲望に傷付けられている。
わたしはそれに強い衝撃を受けた。
ショックだった。
わたしはその場に立ち尽くしてしまい、お祭り気分で喜んでいる場合ではなかった。
とても悲しかった。
北灘湾が泣いているように思えた。
わたしは北灘湾に対して、人の罪を贖(あがな)わなければならないと強く感じた。
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