わたしは驚いた。
彼女の行動は物理的に有り得ないのである。
ベッドまでは1m近くの高さがある。
そこに上がるのにベッドに触れることもなく飛び乗ることは不可能である。
それに、着地の衝撃もなくベッドの上に立っていることなど有り得ない。
物理的におかしなものを見ると、人は恐怖を覚えるか、思考が停止する。
わたしの場合は思考が停止するに近かった。
頭はどうにかその不自然に対する矛盾を取り除こうと努めていた。
鼓膜が膨張するようにボーと大きな音を立てた。
それは飛行機や電車に乗っている時に気圧の変化によって耳が痛くなるのと似ているように思える。
その時、わたしは彼女は「人間」ではないと思い始めていた。
(夢の中にいるような感覚なので、危機感などは基本的に薄い)
すると、その瞬間に全身に何倍もの重力が一気にのし掛かるような感覚があり、わたしはまるでベッドに引きずり込まれるような感覚に襲われた。
まるで暗闇の穴に落ちているようである。
わたしは精一杯の努力をしたが、身体のどの部分も動かすことは出来なかった。
わたしは何かに完全に押し潰されてしまっていたのである。
耳が高音によって引き裂かれるようだ。
わたしは恐怖心というプレッシャーを全身全霊で受け止めていた。
すると、彼女は横向きに寝るわたしの身体を踏まないようにベッドの上で円を描くように歩き始めた。
ギシギシとベッドが音を立てる。
わたしの身体を踏まないように彼女は器用に歩く。
激しい緊張感と恐怖心と重みと耳鳴りの中で、わたしはこれが金縛りというものだろうか?と考えていた。
すると、わたしの考えを読んでいるかのように、黒い影が更に強いプレッシャーと共にわたしに覆いかぶさってきた。
わたしはそれを尋常ではないと感じた。
黒い影はわたしに張り付くようにしていたが、ゆっくりと頭をもたげ始めた。
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