このブログについて

自身の体験をつづりたいと思います。
拙い文章ではありますが、お暇ならお付き合いください。

2012年3月2日金曜日

追憶 10

店長が動揺するのも無理はない。
なぜなら、わたしも動揺していたからだ。
わたしは店長に今後を相談するつもりで声を掛けたからである。
しかしながら、わたしの口を吐いて出たのは結論だったのである。
それが自らの意思ではないことは分かっているのに、なぜかそれを撤回することは出来なかった。
店長はわたしに辞められると困る理由を並べ、わたしを引き止めようとしていたが、わたしの口を吐いて出る言葉は「辞める」の一点張りだった。
ついに店長は諦め、「じゃあ、今月いっぱいは頑張ってくれ」とわたしの意思?を受け入れてくれた。

「ありがとうございました」

わたしは店長に気持ちを伝えて、休憩を消化しないまま仕事に戻った。
もう少しすればここでは働けなくなると考えると、時間がもったいないように思えた。
少しでも長くこの仕事と一緒にいたいと思ったのである。
わたしは棚に積まれたジーンズを取って広げ、深くため息を吐いてまた畳んで棚に戻した。
それから、仕事を辞めるまではあっという間であった。
今までの思い出がフラッシュバックする。
田舎から出て来て間もない右も左も分からない若造だったわたしを育ててくれたのはこのジーンズショップであり、この仕事であり、この仲間なんだと再認識させられた。
辛いこと、苦しいことはたくさんあったけど、今は感謝の気持ちしかなかった。
わたしは店長を始め、バイト仲間に挨拶をして仕事を終えた。

仕事を辞めたわたしの頭の中には、故郷の愛媛に帰るという考えしかなかった。
どうして、新しい仕事を探さなかったのかは分からないが、どうしても帰らなければならないような気がしていたのである。
わたしは早速、引っ越し会社に連絡を取って部屋の荷物を愛媛の実家に送ってもらうことにした。
引っ越しまで約一ヶ月あったので、わたしは身辺整理とお世話になった人たちに挨拶をするために時間を使った。

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