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自身の体験をつづりたいと思います。
拙い文章ではありますが、お暇ならお付き合いください。

2012年3月9日金曜日

追憶 17

それは気持ちの問題であった。
このまま走行して瀬戸大橋を望むよりも、一旦気持ちを切り替えてから再会を果したかったのである。
わたしは新たに気持ちを作ってバイクに股がった。
車はほとんど走っていなかった。
ガソリンタンクをポンポンと軽く叩き、「頼んだぞ」とバイクを本線に乗せた。
しばらく走ると、空に赤や緑の光が滲んでいるのが見えた。
それは闇夜に主塔を浮かび上がらせるための警告灯であった。
わたしはいよいよ瀬戸大橋に辿り着くのだと気持ちが高ぶっていた。
しかしながら、肉体は夜風の寒さに震えていた。
全身に寒さを感じながら進む。
前方にはわたしを誘い込むようにオレンジ色の街灯に照らされて浮き上がる瀬戸大橋があった。
わたしは感動した。
主塔から伸びるいくつものワイヤーが、わたしを幼い頃の自分に引き戻すようだった。
しかしながら、感動の奥に軽い恐怖感が存在していることに気付いた。
この感覚は何なのであろう。
今からわたしは空に放り出されて闇の隙間を彷徨い、やがては暗い海へ沈むのではないかと思うのであった。
橋に近付くに連れて、感動よりも恐怖心が大きくなっていく。
胸が激しく鼓動していた。
わたしは恐怖心を振り切るようにアクセルを開いた。
マフラーがパラパラと乾いた音を上げる。
夜風がまた少し寒くなった。
わたしはスピードを引き連れて瀬戸大橋に突入した。

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