すると男は
「じゃあ、1000円にしとくわ」
おもむろにそう言って何か別の作業を開始した。
わたしはもっと支払いたかったが、指定された金額でなければ男は受け取らないだろうと思い、指定された金額を男に渡した。
「まいど!」
男はどこか嬉しそうだった。
それを見て、わたしも嬉しかった。
わたしはお礼もそこそこにバイク屋を後にした。
それから数日間、わたしは友人にお世話になり、ようやく愛媛に向けて出発したのであった。
大阪を出発し、山陽自動車道を通って岡山県に入った。
大阪を出発した時間が遅かったため、倉敷市に到着する頃には辺りは夜が支配していた。
夏とは言え、夜の山陽道はとても寒く感じられた。
何しろ、スネに感じるエンジンの温もりをとても愛おしく感じる程だったからである。
わたしはこの旅の目的の一つに「瀬戸大橋を渡る」という目標があった。
それは、幼い頃に家族で行った記憶がわたしにそうさせるのであった。
親元を離れて少しは成長したであろう、今のわたしの感覚で再びその空気を感じたかったのである。
道を進んでいると、瀬戸大橋を知らせる看板が目に入った。
わたしの胸は小さく高鳴った。
それはまるで、クリスマスの夜にサンタクロースやプレゼントを待ちわびる子どものような気持ちであった。
わたしは瀬戸大橋が視界に入る前に、路肩にバイクを停めた。
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