わたしは彼の鋭い目つきと温厚な眼差しとのギャップに、どういう訳か何らかの期待を感じていた。
なぜか、このオイルに塗(まみ)れた男が信頼に値すると直感的に感じたのだった。
それは、不思議な感覚だった。
わたしは男にバイクの不備を説明した。
すると、すぐにバイクを持ってこいと言うので、わたしは急いで友人のアパートへと戻り、バイク屋までバイクを運んだ。
わたしのバイクは赤いバイクの隣に並んだ。
男はわたしのバイクを軽く?診断すると、何かを含んだ感じで頷いている。
「どうですか?」
業を煮やして男に尋ねた。
すると、男は言った。
「これは配線がショートしてるな!これ見てみぃ。配線が潰れてしもてるやろ?これじゃあかんで!」
男はそう言って、フェンダー(後部の泥除け)の裏を覗き込んで指差した。
わたしも男の動きに合わせるように、男が指差す先を覗き込んだ。
男はウィンカーの配線を止めていた部分の締め付けが強過ぎだと丁寧に説明してくれた。
これはわたしの仕事であった。
バイクの部品を交換してカスタムする時に念入りに締めた所が強過ぎたようである。
「こんなもんはすぐに直るから待っといて」
そう言って男は早速作業に入った。
「じゃあ、お願いします」
わたしは彼にそう告げると、店内で待たせてもらうことにした。
男は意外に話し好きなようで、いろいろ聞かれた。
その中でわたしは埼玉から愛媛に帰郷する途中であることを話した。
「そういうことなら勉強(安く)しとくわ!」
彼は楽しそうに話していた。
ウィンカーの修理が終わると、男はわたしのバイクを一通り診断し始めた。
そして、一つの重要な問題に気が付いたようだった。
それは、前輪のブレーキパッドの消耗具合いだった。
わたしのバイクはディスクブレーキという方式である。
タイヤに連動して回転するディスクと呼ばれる鉄の円盤を、金属製のヤスリのようなパッドで挟んで止めるというものだ。
250CC以下のバイクには車検が無いため、気にしてはいなかったが、男に言わせると既に交換の目安は過ぎているということであった。
ブレーキパッドが消耗して薄くなれば、ブレーキの性能は下がる。
最悪の場合はブレーキが効かなくなるだろう。
男はわたしにブレーキパッドの交換を勧めた。
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