正門を通り過ぎた足音は納屋に入り、その先にあるわたしの部屋の扉の前に立った。
この時、どういう訳かわたしはそれが当時お付き合いをさせてもらっていた彼女だと思った。
わたしの頭の中では、彼女と遊ぶ約束をしていたけれど出迎えることが出来なかった…と勝手に思考がそのような物語を紡いでいた。
彼女は部屋の扉の前に立っている。
しかしながら、立ち尽くしたままで一向に入ってくる気配がない。
わたしは寝ぼけた頭で「入ってくれば良いのに…」などと考えていた。
すると、次の瞬間に彼女は部屋の中にいた。
わたしは彼女が部屋の扉に触れていないことに気が付いたのは、それから随分後のことであった。
彼女は部屋の扉も開けずに部屋の中に進入して来た。
それだけで十分おかしな状況ではあるが、わたしの頭はそれを不自然だとは認識しなかった。
彼女は円を描くように部屋の中を歩いた。
わたしの頭の位置だと、彼女のお腹から胸の辺りがちょうど目線と同じくらいの高さになる。
「何やってんだろう?」わたしは彼女の行動に素直にそう思った。
普通ならわたしが寝ている横で部屋の中を歩き回らないだろう。
普通ならわたしのことを起こそうとするはずである。
しかしながら、彼女は何度も繰り返して円を描くように歩き回った。
それでもわたしはそれを変だとは思わなかった。
むしろ、わたしは起こされるのを期待しているところがあった。
しかしながら、彼女は一向にわたしを起こす気配がない。
そこでわたしは始めて極小さな違和感を覚えた。
「あれ?何か普通じゃないな?彼女じゃないのか?」そう思い始めた瞬間に、彼女はベッドの上にいた。
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