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自身の体験をつづりたいと思います。
拙い文章ではありますが、お暇ならお付き合いください。

2012年5月18日金曜日

追憶 87

何となくではあったものの、この声や悲しみの感情は黒い犬のものではないかと考えていた。
そう思うと、とてもかわいそうになってきた。
わたしの中には哀れみと同情が生まれていたのだった。

黒い犬に確実に近付いてきている。
声も感情も少しずつではあるものの、確実に強く大きくなっているのを感じるのである。
わたしは周囲に注意しながら進んだ。
すると、どういう訳かわたしの意識は何時の間にかに暗闇から抜け出ていた。
わたしの目の前には依然として暗闇が広がっているものの、その暗闇は心の中の暗闇とは既に違っていた。
わたしがなぜそのように思ったかと言うと、自らの輪郭(皮膚)に感覚があるからである。
意識の中にいる時には、いつの時も自らの輪郭に対する感覚は存在しなかった。
輪郭を含む自分自身のすべてが周囲の空間と溶け合っているような感覚なのである。
形はあるけれど無いような不思議な感覚である。
だから、輪郭が空気に触れている感覚を覚えるこの暗闇は、黒い犬が潜んでいる心の中の暗闇ではないと思うのである。

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