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自身の体験をつづりたいと思います。
拙い文章ではありますが、お暇ならお付き合いください。

2012年5月17日木曜日

追憶 86

わたしは黒い犬だけに意識の焦点を合わせて、ただひたすらに距離を稼いだ。
その時、他のどのような変化に対しても心を惑わされないように注意を払った。
そのせいか、今回は長く歩くことができているように思える。
このまま進んで行けば黒い犬に辿り着けるというような根拠の無い自信のようなものが、わたしの心の中には満ちていたのだった。
わたしは黒い犬のことだけを考えて歩みを進めた。
すると、今までには無い変化がわたしを襲った。
それは声であった。
低く掠(かす)れた声のようなものがどこからとも無く聞こえてくるのである。
それは、地鳴りのようでもあり、うめき声のようでもあった。
視界の先はいつもと同じ暗闇が広がっているでけであったが、そこにこの声が響くと、何とも言えない悲しみを感じるのであった。

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