黒い犬の姿を認識した時点から、わたしの成すべきことは決まっていた。
わたしはこの黒い犬を、この苦しみから解放してやらなければならないのだろう。
黒い犬が何に対して苦しんでいるのか?そもそも苦しんでいるのかを確信することはできないが、そこから解放するべきであると強く感じるのであった。
わたしは黒い犬のことを知る必要があった。
知らなければ、解放することなんてできないだろう。
重い身体に鞭(むち)を打って、黒い犬に対して手を伸ばした。
すると、黒い犬は自らよりも更に暗い闇にその身を溶かし始めた。
わたしはこの状況に危機感を覚え、無理矢理に手を伸ばした。
しかしながら、わたしの思いとは裏腹に身体は思うように言うことを聞いてはくれなかった。
視界が滲(にじ)むようにして世界が歪む。
立ちくらみのような感覚と共に視界が潰されていく。
黒い犬が遠ざかるのと同時に意識が遠ざかっていくようである。
そして、わたしは視界を失った。
そこにはただ、夜の闇よりも深い暗闇が広がっているだけであった。
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