わたしは精神としての彼の話を聞く必要はなかったのだろう。
	右の人差し指と中指が空中に十字を描くと、暗闇を切り裂くようにして光の十字架が現れた。
	それを彼に投じると、それは胸に突き刺さって輝きを増した。
	彼の大きく開かれた口からは大量の黒い煙のようなものが吐き出された。
	それは、頭上で蛇のように絡まっていた。
	わたしは吐き気を覚えたが、再び光の十字架を創造し、黒い煙のようなものに投じた。
	すると、ゲップと共にそれは”天”へと消えた。
	黒い煙のようなものを吐き出した彼は沈黙して立ちすくんでいる。
	わたしは近寄って彼を抱擁(ほうよう)した。
	すると、彼の頬を流れ星のように涙が走った。
	それを見て、わたしは安心した。
	精神としての彼の抱えている苦しみは取り除くことができたのだろう。
	浮かび上がり、”天”へと吸い込まれていく彼を見送りながら、わたしは思いを馳(は)せていた。
	
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