男を引き寄せて抱き締めると、それが自分自身であることに気が付いた。
	男はわたしではないが、わたしなのである。
	人は選択の違いによって状況(状態)を分かつ。
	男はわたしとは真逆の選択をした。
	わたしと彼は、選択によって道を分岐するまでは同じ線上にあったはずだ。
	もちろん、これは意識の状態のことである。
	男が苦しみを選択しなければ、わたしと同じ喜びの道を歩んでいたはずだ。
	そのため、男はわたしなのである。
	今、男は喜びの線上に存在しているだろう。
	穏やかな表情を見れば分かる。
	男とわたしは再び一つになったのである。
	天から射す光が、わたしに時間を告げた。
	わたしは男を手放した。
	すると、死神が男を抱きかかえ、ゆっくりと上昇を始めた。
	死神はやはり敵対する存在ではない。
	わたしたちは同じ仕事をしているのだ。
	死神からは強大な慈愛のようなものさえ感じる。
	天が閉じると、わたしは部屋で独りになった。
	
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