身体が動き始めたのは、それからしばらく経ってからのことである。
小さくも異質な意思が、わたしの心の中にとても小さな「点」を打つ。
それは気が付かない程の小さな「点」ではあったが、やがて全体を覆い尽くすような「面」になる。
そうやって心は支配されていく。
どのような支配も、初めは小さなことからである。
支配されたしまった心は、その状態から簡単に抜け出すことはできない。
自分自身でその状態が異常であると認識していたとしても、その強固な「面」からは抜け出せない。
支配は人の自律を殺す。
幼いわたしは、愛情によって満たされない心の中に生み出される悲しみの感情による支配を受けていた。
それは小さな「点」から始まったものかもしれないが、気付かぬ内に「面」となっていた。
悲しみはわたしの心を支配し、そこに存在している黒い犬をも支配した。
悲しみという破滅的な感情に支配されてしまった心は制御を失う。
破滅的な心は荒れるのである。
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