このブログについて

自身の体験をつづりたいと思います。
拙い文章ではありますが、お暇ならお付き合いください。

2012年6月7日木曜日

追憶 107

その時、わたしは頬を一筋の涙が伝うのを感じた。
別に泣きたい訳ではなかった。
涙が出る程の気持ちの高ぶりはないのである。
わたしはなぜ自分が涙を流しているのか理解することができなかった。
しかしながら、わたしの理解に反して、悲しくもないのに次から次へと涙は頬を伝う。
感情ではなくて肉体が泣いているような感覚であった。
わたしはイメージを使って、溢れ出るその涙に意識を合わせてみた。
すると、その意識は自らの胸の中へと向かって伸びていった。
そして、それは黒い犬へと到達するのであった。
どうやら黒い犬が泣いてるようである。
しかしながら、その表情は今になってもまだ威嚇を続けているのであった。
きっと、この涙は黒い犬の本心ではないだろうか?
わたしたち人も同じであるが、怒りや恨みの本質は悲しみであったりする。
怒りは直接的に憤(いきどお)りによってもたらされることもあるであろうが、失望や悲しみが生み出すことも十分に考えられる。
大抵の怒りの原因は、突き詰めていくと悲しみになるのではないだろうか?
黒い犬が抱えているものはわたしの心の傷である。
それは、愛情に満たされないという悲しみから生み出されたものなのである。

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