しかしながら、わたしの静寂は直ぐ様破られることになる。
しわ一つないワイシャツのように美しく張りつめた空気の中に、たった一本のしわが走る。
新雪に足を踏み入れるかのように、「音」がわたしの静寂を傍若無人(ぼうじゃくぶじん)に横切った。
それは、とても小さな鐘の音だった。
仏壇にある鐘のように乾いた高い音だった。
それがどこからともなく聞こえてくるのであった。
とても小さな音ではあるけれど、わたしの儚(はかな)い静寂を切り裂くのには十分過ぎる力を持っていた。
それ程、わたしが探し求めていた静寂は繊細なのであった。
小さな鐘の音はわたしに五感を思い出させた。
思考が蘇生する。
わたしの頭の中はいつの間にかどこからともなく聞こえてくる小さな鐘一色になっていた。
思考の回復に伴い、空間認知能力が働き始める。
わたしはそれに気付かず、無意識の内に音の発生場所を探すのであった。
それはとても遠くの方から聞こえてくるようだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿