玄関を開けて、わたしは老女の名前を叫んだ。
それは、彼女は耳が遠かったからである。
何度か叫ぶと、奥の方で物音がしたのに気が付いた。
もう一度叫ぶと、ようやく、わたしの耳にも返事が届いた。
しばらく待っていると、壁に設置してある手摺(てすり)を頼りにして、身体を支えて歩く老女が顔を見せた。
わたしが笑顔で挨拶をすると、老女はいつものようにわたしを祭り上げるような挨拶をするので、それを制した。
わたしを"先生"と呼び、特別扱いするのは相変わらずである。
わたしは彼女の言動を訂正しながら、彼女の言葉に従ってお邪魔することにした。
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