わたしには、売るほどの失敗談はあっても、不幸話というものはない。
	
	それは、わたしが不幸ではないからである。
	そのため、彼女達の期待には応えられそうにもなかった。
	そこでわたしは、彼女達に
	「悪魔も殺人鬼もいて良いと思いますよ」
	と伝えた。
	すると、彼女達はわたしの言葉に耳を疑ったのであろう。
	予想外の出来事に遭遇し、自分の思惑(おもわく)や計画が完全に破綻した人の表情を見るのは慣れている。
	光の仕事で天使や相手の守護者の言葉を伝える時には、誰もが同じ表情になるからだ。
	わたしはまた吹き出しそうになったが、懸命に自分を抑えた。
	彼女達はしばらくの間、唖然としていた。
	それは、五秒くらいだったかも知らないが、彼女達にとっては長い時間だったかもしれない。
	わたしの先制パンチが見事に彼女達を撃ち抜いたのである。
	この”試合”の勝敗は既に決まった。
	わたしの勝ちである。
	対人の勝敗は、初めに驚かせた方が勝ち、驚いた方が負けると相場が決まっているのである。
	
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