Hさんの明るい面の感情に触れていると、わたしは何とも言えない高揚感に包まれた気分であった。
幸せとは、このようなことを言うのかもしれない。
わたしは満たされていた。
この気分をずっと味わっていたかったが、一つどうしても気になるものがあった。
それは、わたしの足元の床にある扉であった。
それは観音開きの古びた木製の扉である。
木材は歴史を重ねて黒ずみ、取っ手や蝶番(ちょうつがい)などの金属製の装飾は赤茶色に錆びていた。
それは、古い寺の門を小さくしたような作りであった。
楽しい気分の片隅では、その扉に対する注意があった。
わたしにはそれが責任として感じられる。
それは、外出先で家の鍵を閉め忘れたのではないかと思い始めた時のような感覚なのである。
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