母親の心の中にいる人影は完全に沈黙し、そこには何の嫌悪感も感じなかった。
わたしは目を閉じたままで右手を差し出し、人差し指と中指によって母親の背中に大きく円を二周描いた。
わたしの指の軌跡は金色の光を以て輝き、母親の背中を眩しいほどに照らした。
光の眩しさに(目は開いていないけれど見えるため)わたしは目を細めた。
しばらくして光が収まると、母親の背中と心の間には何の隔たりも無くなってしまった。
背中にぽっかりと穴が空いているような状態である。
それは、肉体を超越し、心の中に直接繋がるトンネルのようだった。
わたしと人影の間には、肉体と意識の壁のようなものが存在していた。
人が自らの心に触れることができないのは、肉体と意識の間に見えない壁のようなものが存在しているからである。
そのため、わたしの肉体では母親の心の中にいる人影に触れることはできなかった。
しかしながら、今の状態であればそれができるような気がしていた。
手の届く範囲に人影が見えるのである。
0 件のコメント:
コメントを投稿