苦しいことは苦しいと、嫌なものは嫌だと、敵は敵だとわたしに教えたのは周りの大人たちである。
残念ながら、周りの大人たちがわたしに本当のことを教えることはなかった。
大人たちはそれが真実であると思っていたかも知れないが、わたしにとっては真実ではなかったのである。
苦しいことは苦しみではない。
嫌なことは嫌なことではない。
敵は敵ではなかったのだ。
もしも、わたしが母親の心の中に存在していた人影と直接向き合うことがなかったら、わたしは正義感という偏見によって敵対していたに違いない。
戦隊ヒーローのように、敵を打ちのめしていたかも知れない。
人影の抱えていた怒りや悲しみなどの苦しみを共に支えることもなかったであろう。
正義感によって人影と対立し、互いに更なる傷を負ったに違いないのである。