やがて、法華津(ほけつ)峠に差し掛かった。
しばらく走ると1320mという長さの法華津トンネルが口を開いている。
それを抜けると、そこから長短九つものトンネルを通過しなければならなかった。
法華津トンネルは雨を垂らして暗く淀(よど)んで見えた。
わたしにはそれが、よだれを垂らす大きな口のようにも感じられた。
TVの電波はここまでは届いていない。
カーナビの画面には砂嵐が映し出され、車内には不快なスノーノイズが響いていた。
しかし、わたしはそれを気にも掛けなかった。
Nがどう思っていたのかは分からないが、それを指摘することもなかった。
わたしたちは沈黙の中にスノーノイズを聞きながら、黒い口を開ける法華津トンネルへと侵入した。
0 件のコメント:
コメントを投稿