相変わらず耳鳴りは続いていたが、わたしはそれを無視した。
それは、今のわたしにはどうすることもできなかったからである。
わたしの座っている場所からペンションは正面に位置する。
そのため、自ずと視界には女が映る。
視界の中に映り込む女を気にしないように努めても、暗闇の中に浮き上がって見えるその姿はやはり気に掛かるものだ。
わたしは女から意識を遠ざけるために皆との間に楽しい話題を探すことに専念した。
皆の様子を伺(うかが)っている時、俯(うつむ)くAの姿が気になった。
以前にも増してしんどそうに見えたので声を掛けると、突然に自らの心臓が大きく脈打つのを感じた。
どういう訳か、とても大きなプレッシャーを感じるのである。
緊張感というか、危機感というか、ただ事ではない感覚がわたしを襲うのであった。
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