空き家には、小さな門戸(もんこ)が備わっていたが、扉は外れていた。
	門戸の枠組みだけの状態である。
		
		
	
わたしはそこから家の様子を伺(うかが)っていたのだが、門戸の端に目をやった時に驚いた。
		それは、門戸の端から覗き込むようにして、若い女性の顔が半分だけが見えていたからである。
		空き家だと思っていたが、人が住んでいたのだろう。
		彼女はわたしを不審(ふしん)に思ったに違いない。
		見ず知らずの男が家の様子を伺っているのである。
		しかも、こんな山奥である。
		誰でも不審に思うだろう。
		恐ろしくて覗き見ているに違いない。
		わたしは申し訳なく思い、誤解を解くためにヘルメットのバイザーを上げて大袈裟に会釈(えしゃく)をした。
		目線を戻すと、既に女性の姿はなかった。
		
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