その時、女の頬を一筋の光が走った。
それは、流れ星のように見えた美しい涙であった。
女は恨みの感情を手放したのであろう。
そうでなければ、このように美しい涙が頬を伝うことなどないはずである。
天から降る光は、涙に呼応(こおう)して光量を増した。
天が近くなっているのだろう。
女の身体に重さが感じられなくなり、ゆっくりとわたしの腕を離れる。
天からの光に吸い寄せられるように浮かぶ女の姿は、海中から見上げたクラゲが日光を浴びて輝く光景を思い出させた。
「ありがとう」
素直な気持ちが言葉となる。
女は恨みの感情によって老人と男性を苦しめたに違いない。
それは、女にとっても苦悩であっただろう。
この苦しみによって得をした者などいない。
恨みの感情は喜びを導かないのである。
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