友人は、喪主(もしゅ)を務める主人の後に続いている。
友人の主人は、故人の長男であり、恐らくは強い絆で結ばれた人物であるだろう。
長男である主人ならば、老女の声が届くかも知れない。
そう思って、わたしは観察を続けた。
しかしながら、焼香を済ませた主人は、炎に焼かれる老女の前を平然と素通りしてしまった。
その足取りは自然なものであり、その挙動には何の違和感も見られなかった。
そして、友人も同じように通り過ぎてしまったのである。
彼等にも、老女の声は届いていないのだろう。
誰も何の反応も示さないまま、わたしの順番が回ってきた。
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