男は所謂(いわゆる)、落ち武者というものであろう。
男が既に他界しており、霊体として彷徨(さまよ)っていることはすぐに理解できた。
男は恐ろしい形相で迫ってくるが、わたしの心の中は悲しみで満たされていた。
わたしは男を哀(あわ)れんだ。
すると、右手が宙に十字を描いた。
光の十字架は、彼を救ってくれるだろう。
わたしは身体に任せて、光の十字架を男へ投じた。
光の十字架は真っ直ぐに飛んで、男の薄い胸を射抜いた。
男が苦しそうに倒れると、わたしは吐き気に襲われて、黒い煙のようなものを吐き出した。
これは、男の抱える苦悩の意識である。
黒い煙のようなものに対して、わたしは再び光の十字架を投じた。
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