周囲を見渡して、誰にも見られていないことを確認する。
	扉に肩を擦るようにして家内に飛び込んだ。
	扉の閉まる音で、追手の声と足音がこの世から消えてしまったのではないかと思えるほど、家内には穏やかな空気が流れていた。
	男は自分が天国に辿り着いたと思った。
	しかし、それは一瞬のことであり、自らの荒々しい呼吸が目の前に生と死とを計りにかける天秤を見せたのであった。
	振り返ると、先ほどの女性が緊迫の表情で扉に耳を当てていた。
	男は脳裏に過(よぎ)る追手のことが気になり、急いでここから出て行かなければならないと思い至った。
	
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